基礎知識 — 主な成分
酸性型と活性型 — なぜ大麻草は加熱しないと効かないのか
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「生の大麻草を食べてもほぼ効かない」 —— 意外に思われるかもしれないが、これは事実である。大麻草の中で THC や CBD として知られる成分は、実は植物の中ではほとんど存在せず、代わりに THCA(THC 酸)・CBDA(CBD 酸) という別の形(酸性型)で蓄えられている。これらが 加熱されてはじめて 活性型(THC、CBD)に変わり、人体に作用するようになる。
この変換反応を「脱炭酸(だったんさん、Decarboxylation、または『デカルボキシレーション』)」と呼ぶ。本記事ではこの仕組みを説明する。
カンナビノイドの酸性型と活性型の違いは、構造の中の カルボキシル基(-COOH、酸性の特徴を作る原子の組)の有無である。
THCA (酸性型) → THC (活性型) + CO₂
CBDA (酸性型) → CBD (活性型) + CO₂
加熱すると カルボキシル基が二酸化炭素として抜け落ちる。この反応は 元に戻らない(不可逆反応)。同時に分子構造がわずかに変わり、これが受容体への結合性を大きく変える。
つまり、生の大麻草を生のまま食べても精神作用はほとんど起きない。一部の文化で「コールドプレスのカンナビスジュース」が流通する背景には、この性質がある(ただし日本国内では生の大麻草の所持・摂取は規制対象である)。
脱炭酸の進行は 温度・時間・湿度 に依存する。
温度が低すぎると未脱炭酸の THCA が残り、効力が弱い。一方、温度が高すぎたり時間が長すぎたりすると THC がさらに CBN(カンナビノール)に分解 される。CBN は鎮静作用について研究されているが、THC とは異なる作用プロファイルを持つ。
経口摂取用の大麻製品(エディブル)を作る際には、事前に脱炭酸を完了させる工程 が必須となる。生の大麻を直接バターやオイルに漬けても、酸性型のままでは消化管から吸収されても精神作用がほぼ生じない。
このため、海外の合法地域では「事前にオーブンで 110°C・40 分程度加熱して脱炭酸する」という工程が、食用大麻文化の標準的なレシピに組み込まれている(ただし日本国内では大麻草・大麻製品の所持・使用・栽培・輸出入は大麻取締法および関連法令で規制されている)。
CBD オイルなどの製品も、原料段階で 脱炭酸処理 を経て活性型 CBD に変換されている。一部「ロー(raw、未脱炭酸)カンナビノイド製品」として CBDA を残した製品も存在し、酸性型 CBDA は CBD とは異なる薬理作用について研究されているが、ヒト臨床での結論的なエビデンスは限定的とされる。
産業用ヘンプの THC 含有量規制(米国・EU で 0.3% など)は、通常 Δ9-THC 単独 で測定される。一方、加熱で THCA が THC に変わるため、「総 THC(Δ9-THC + THCA × 0.877)」を基準にすべきだとする議論があり、米国 USDA は 2021 年以降、総 THC 基準を採用している。詳しくは別記事「ヘンプとマリファナの違い」を参照。
THCA・CBDA・CBGA などの酸性型カンナビノイドは、活性型とは異なる作用プロファイルを持つ可能性について研究が進められている。たとえば THCA は 抗炎症作用や神経保護作用 に関する研究が報告されているが、現状ではヒトでの臨床的有効性は確立されていない。
製品の試験成績書(COA、Certificate of Analysis)では、THC と THCA の両方が個別に表示されることが業界標準となっている。脱炭酸の進行度合いが製品の効力を決めるため、購買・規制双方の観点で重要な指標となる。
ヘンプ由来 CBD を化学変換して作られる Δ8-THC、HHC などの半合成カンナビノイドは、脱炭酸とは異なる化学反応で合成される。これらは植物中の天然脱炭酸では生じない人工成分であり、規制対応が各国で進んでいる(別記事「指定薬物制度と HHC」を参照)。
「大麻草の中身は加熱されてはじめて効くようになる」 —— この単純な事実が、喫煙・ヴェイポライザー・エディブル・CBD オイルすべての製品工程の根底にある。植物中の酸性型(THCA・CBDA)は活性型(THC・CBD)とは異なる薬理プロファイルを持ち、近年は酸性型自体の薬理研究も進んでいる。日本国内では大麻草・大麻製品の所持・使用・栽培・輸出入は大麻取締法および関連法令で規制されており、本記事は化学的な仕組みの解説のみを目的としている。
出典 — Sources
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