南アフリカ共和国(以下、南アフリカ)では、2018 年 9 月 18 日の憲法裁判所判決 によって「私的領域での大麻使用を犯罪とする法律はプライバシー権を侵害して違憲 」と判断され、個人使用・所持・栽培が事実上の合法状態に置かれた。判決後、立法による整理に数年かかり、2024 年 5 月 28 日にラマポーザ大統領が「Cannabis for Private Purposes Act(CPPA)」に署名 。ただし本記事更新時点(2026 年 5 月 17 日)で 同法はまだ全面施行されておらず 、施行に必要な規則の整備が進行中。
ざっくり言うと
何が起きたか — 南アフリカで「私的に大麻を使う・育てる」のは合憲とされ、2024 年に正式な法律(CPPA)が成立。ただし規則整備中でまだ全面施行はされていない
なぜ重要か — アフリカ大陸で先行的に大麻の私的使用を合法化した事例で、周辺国の議論にも影響する
日本との関係 — 「裁判所判決から立法による整理までに数年かかる」という典型例で、立法と現場運用のタイムラグを示す参考事例
何が起きたか
2018 年憲法裁判所判決
判決日 : 2018 年 9 月 18 日
事件名 : Minister of Justice and Constitutional Development v Prince(複数の関連事件が併合審理された)
判決内容 :
「成人が私的領域で個人使用のために大麻を所持・栽培・使用することを刑事罰化する条項は憲法第 14 条(プライバシー権)を侵害する」 と判示
1992 年薬物および薬物取引法(Drugs and Drug Trafficking Act 140 of 1992)および 1965 年薬物・関連物質統制法(Medicines and Related Substances Control Act)の関連条項を 2 年以内に立法で是正する よう議会に命令
商業的販売・公共空間での使用は引き続き違法
判決の意義 :
アフリカ大陸で初の最高裁レベルでの個人使用非犯罪化判断 として国際的に注目された
プライバシー権を根拠とした薬物規制の限定 は、メキシコ最高裁(2018-2021 年判決)、ジョージア州憲法裁判所(2018 年判決)などと並ぶ憲法的アプローチの一例として研究されている
立法による整理と未施行の現状(2018-2026 年)
憲法裁判所が命じた 24 か月期限は 複数回延長 (議会の立法遅延による)
2020 年: Cannabis for Private Purposes Bill の草案公表、その後議会審議と公聴会、複数の修正
2024 年 5 月 28 日 : ラマポーザ大統領が Cannabis for Private Purposes Act (以下、CPPA)に署名(2024 年法律第 7 号)
2024 年 6 月 3 日 : 官報(Government Gazette 50744)に公布。ただし 「署名済みだが施行されていない」 状態
施行には追加ステップが必要 : 議会が必要な規則(個人栽培の株数上限・所持量上限など)を承認し、その後に大統領が 施行宣言(proclamation) を行うことで初めて効力が生じる
2026 年 : 司法・憲法発展省が CPPA の 規則案についてパブリックコメント を実施(意見提出締切 2026 年 3 月 5 日)。確定後、上限値などが議会承認に付される予定
CPPA(2024 年成立)の主な内容
南アフリカで 2024 年に成立した CPPA は以下を主な内容とする:
私的領域における個人使用のための所持・栽培・使用 を明確に合法化(成人のみ)
量的制限 : 個人栽培の株数上限、所持量上限を規定
公共空間での使用 は禁止
未成年者保護 : 未成年への提供・販売は引き続き刑事罰の対象
商業的販売 は CPPA の対象外で、引き続き別途の立法を要する
南アフリカ国内の 薬物及び関連物質統制法等 の関連条項を整合的に修正
背景
ラスタファリ運動と Prince 訴訟の経緯
判決の被告側当事者の一人 Garreth Prince 氏 は ラスタファリアン (ラスタファリ運動の信徒、宗教実践として大麻を使用)であり、1990 年代から 宗教の自由・プライバシー権を根拠とした司法闘争 を続けてきた。Prince 氏の訴訟は南アフリカ憲法裁判所で複数回審理され、2002 年・2018 年など複数の重要判決を生んでいる。
ラスタファリ運動は ジャマイカ起源 の宗教運動で、南アフリカでも信徒コミュニティが存在する。2018 年判決はラスタファリアン特有の問題に限定された判断ではなく、成人一般の私的使用に対するプライバシー権 として広く認められた。
医療大麻と産業用ヘンプ
南アフリカは 2017 年から医療大麻ライセンス制度 を整備しており、CPPA とは別系統で運営されている。産業用ヘンプ についても順次規制整備が進んでおり、農業多角化と輸出市場の文脈で議論されている。
関連する論点・影響
南アフリカの商業合法化議論
南アフリカの CPPA(2024 年成立)は 商業的販売の合法化 を含んでおらず、引き続き別途の Cannabis Master Plan や産業政策との連携が議論されている
南アフリカの違法市場の縮小には商業チャネルの整備が不可欠との指摘がある
一方、青少年保護・公衆衛生の観点から段階的アプローチを支持する立場もある
アフリカ大陸での影響
南アフリカの 2018 年判決と 2024 年 CPPA は、レソト、エスワティニ、ジンバブエ、ウガンダ、ガーナ、モロッコ などアフリカ諸国の大麻政策議論に影響を与えていると報じられている
モロッコ は 2021 年に Law 13-21 のもとで医療・産業用大麻を合法化、レソト は 2017 年から医療大麻ライセンス制度を整備
南アフリカモデル(2018 年憲法裁判所判決と 2024 年 CPPA)は「プライバシー権を起点とする個人非犯罪化 」の参照例として位置づけられる
憲法的アプローチの国際比較
メキシコ最高裁 の連邦控訴審で 2018 年以降、個人使用に関する憲法判断が複数下された
ジョージア州憲法裁判所 が 2018 年に個人使用の刑事罰化を違憲としたケース
イタリア憲法裁判所 が 2019 年に大麻自宅栽培の刑事罰について限定的な判断
これら国際的な憲法判断の流れの中で、南アフリカは アフリカ大陸の代表的事例 として研究されている
日本との関係
日本国民が南アフリカで大麻を所持・使用した場合、CPPA のもとで個人使用は合法とされる枠組みであっても、日本の大麻取締法および関連法令の国外犯規定 により、日本国内で処罰される可能性がある
渡航前に 外務省渡航情報 と現地法務専門家の確認が推奨される
出典
本記事について
本記事は各国の法制度に関する情報提供を目的としています。
法制度は変更される可能性があり、本記事の内容は記事公開時点 (2026年5月14日)の情報に基づきます。
渡航・在留・実務上の判断にあたっては、必ず最新の法令および現地法務の専門家を参照してください。
本記事は大麻の使用を推奨・推進するものではなく、海外渡航時にも各国の法令を遵守してください。
日本においては、大麻取締法および関連法令により大麻草・大麻製品の所持・使用・栽培・輸出入は規制されています。日本国民は海外で日本法上違法となる行為を行った場合、国外犯規定により処罰される可能性があります。