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日本では 2024 年 12 月の改正法以降、CBD 製品などに含まれる Δ9-THC の残留限度値 が製品形状ごとに定められた。この枠組みは「乾燥重量 0.3%」のような数値で線を引く米国・EU 型の基準とは構造が異なる。本記事は、各国の THC 基準を 事実として比較 し、その違いから日本国内の産業・消費者・流通で 報告されている摩擦 を中立的に整理する。どの基準が「適切か」を論じるものではなく、現状と論点を提示することを目的とする。

ざっくり言うと

  • 何が起きているか — 日本の THC 規制は「製品形状別の残留限度値(ppm)」、海外の多くは「原料植物の乾燥重量に対する %」と、そもそも測る対象が違う。この差から、海外で合法な CBD 製品が日本で流通できない・回収される事例が報告されている(2026 年 5 月にはサントリー HD 元会長の不起訴も報じられた)
  • なぜ重要か — 基準の枠組みが違うと、製品の輸入可否・在庫管理・検査コストに実務上の影響が出る。一方、規制側は消費者保護と THC 乱用防止を理由に挙げている
  • 日本との関係 — 日本国内では大麻草・大麻製品の所持・使用・栽培・輸出入は大麻取締法および関連法令で規制されている。本記事は規制の是非を主張するものではなく、事実と報告されている課題を整理するもの

何が起きているか — 日本の基準の枠組み

日本では 2024 年 12 月 12 日施行の改正法 以降、製品中の Δ9-THC が残留限度値を超えると、大麻由来かどうかにかかわらず麻薬として扱われる(厚生労働省・麻薬取締部)。限度値は製品形状ごとに定められている:

  • 油脂・粉末: 10 ppm
  • 水溶液: 0.10 ppm
  • その他: 1 ppm

加えて、2025 年 3 月施行の第二段階で、栽培用の大麻草は Δ9-THC 0.3% 以下 の種子等を用いる免許制度が整理された。

ここで重要なのは、「残留限度値(製品中の ppm)」と「乾燥重量に対する %(原料植物の含有率)」は別の概念 という点。海外の多くの国は後者(植物の含有率)で線を引くのに対し、日本は前者(完成品の残留量)を主軸にしている。

背景 — 各国の THC 基準(2026 年時点)

世界の「ヘンプ(産業用大麻)」の線引きは国によって大きく異なる。あくまで 事実としての数値比較:

国・地域基準(原則)
米国乾燥重量 Δ9-THC 0.3% 以下(2018 年 Farm Bill)。2025 年 11 月の連邦法改正で 総 THC 基準 + 完成品 1 容器あたり 0.4 mg へ移行(2026 年後半施行予定)
EU(栽培)圃場のヘンプ 0.3% 以下(2023 年 1 月に 0.2% から引き上げ)。完成品(CBD 製品等)の基準は加盟国ごとに異なり、国により幅がある
スイス・チェコ1.0%
オーストラリア・ニュージーランド圃場 1.0%(報告ベース)
南アフリカ2.0% への引き上げを提案中とされる
日本製品形状別の残留限度値(油脂・粉末 10 ppm/水溶液 0.10 ppm/その他 1 ppm)。栽培は種子等で 0.3% 以下

EU では 2026 年に入り、欧州産業ヘンプ協会(EIHA)が圃場の THC 上限を 0.3% から 1.0% へ引き上げるよう求める改革 を提起したと報じられている。世界的には「ヘンプの定義をどこで引くか」が依然として動いている論点である。

国内で報告されている摩擦

各国基準の枠組みの違いから、日本国内では以下のような課題が 業界・行政・報道で指摘されている(以下は報告されている事象であり、本記事の評価ではない):

海外製フルスペクトラム製品の流通困難

フルスペクトラム CBD 製品(CBD に加え CBG・CBN や微量の THC を含む製品)は、米国・欧州などでは一般的に流通している。しかし日本では、含まれる Δ9-THC が残留限度値を超えると麻薬該当となるため、米国・欧州製フルスペクトラム製品の多くが日本の基準を満たせない 可能性が指摘されている。結果として、輸入できる製品が アイソレート(CBD 単体)やブロードスペクトラム(THC 除去) に偏りやすいとの声が業界から出ている。

製品回収・販売停止の事例

2025 年 5 月には、福岡県の買上調査で 残留限度値を超える Δ9-THC が検出された CBD グミ製品(商品名「CBD EAST GUMMIES いちご味」)について、厚生労働省が注意喚起を行った。基準の運用が始まったことで、流通後に限度値超過が判明し回収・販売停止に至る事例が生じている。

個人輸入をめぐる事例 — サントリー HD 元会長の不起訴

2026 年に大きく報じられたのが、サントリーホールディングスの新浪剛史・元会長(67)をめぐる事案である。報道・捜査関係者の情報によれば、新浪氏は知人女性(59)と共謀し、2025 年 8 月に THC を含む疑いのあるサプリメントを輸入した として、2026 年 4 月に 麻薬及び向精神薬取締法違反などの容疑で書類送検(門司税関は関税法違反〈禁制品輸入〉容疑で告発)された。新浪氏は 「合法な CBD サプリメントという認識だった」 と説明していたとされる。

2026 年 5 月 22 日、福岡地検は新浪氏と知人女性をいずれも不起訴 とした(関税法違反容疑も不起訴)。地検は理由を「捜査によって得られた関係証拠を慎重に検討した結果」と説明し、嫌疑不十分・起訴猶予といった具体的な不起訴理由は公表していない。

この事案は、「合法な CBD と認識して入手した製品が、結果的に THC を含み規制対象となりうる」 という、本記事で扱う枠組みの摩擦が、企業経営者という立場でも生じうることを示した例として広く報じられた。同時に、最終的に不起訴となった経緯自体も、こうした事案に対する司法判断の一過程である。

検査・品質管理の負担

製品ごとに Δ9-THC 残留量を確認するには 第三者試験成績書(COA) が実務上重要になる。微量(ppm レベル)の管理が求められるため、分析コストや品質管理の負担が中小事業者に重い との指摘がある。また CBD は保管・流通の条件によって品質が変化しうるため、出荷後の管理も課題とされる(詳しくは別記事「CBD とは」参照)。

CBN 指定薬物化による在庫・事業への影響

2026 年 6 月 1 日施行で CBN(カンナビノール)が指定薬物 となるため、CBN を含有する製品は同日以降、製造・輸入・販売・所持・使用が原則禁止となる。これに伴い、CBN 製品を扱ってきた事業者が在庫処分や事業転換を迫られている 状況が業界メディアで報じられている。一部では「CBD 3.0」と呼ばれる市場再編(技術力・資本力のある企業への集約)が進むとの見方もある(詳しくは別記事「指定薬物制度と HHC など類似成分」参照)。

旅行者・帰国者をめぐる扱い(使用と所持で異なる)

ここは誤解されやすい点なので、改正法の国会審議での政府答弁に沿って整理する。

  • 海外での「使用」そのもの: 改正法の国会審議で、武見敬三・厚生労働大臣(当時)が 2023 年 11 月 10 日の衆議院厚生労働委員会 で「麻薬関係法令において施用罪に国外犯処罰規定は適用されないため、海外で大麻を吸引しても、日本の麻薬及び向精神薬取締法の適用はされない」と答弁している。さらに「大麻を海外で吸引して帰国した人については、大麻を所持していなければ、仮に尿から大麻の代謝物が検出されても、直近で海外への渡航歴があり、国内での施用を裏づける証拠がない限り、立件されることはない」とも述べた。つまり 大麻が合法な国で大麻を使用する行為自体は、日本の使用罪では処罰されない
  • 製品の「持ち込み・所持」: 一方、所持・譲受け・輸入 には国外犯規定が適用されうる。海外で購入した CBD・THC 製品を 日本に持ち込む行為は依然として違法・摘発リスク がある

つまり「海外での使用」と「製品を日本に持ち込む(所持・輸入)」は法的な扱いが根本的に異なる。渡航時には、各国法令と日本法令の双方を確認し、規制対象製品を持ち帰らない ことが重要となる。

規制側の説明

一方で、規制当局は現行の枠組みについて 消費者保護と THC 乱用の防止 を理由として挙げている。具体的には:

  • 製品形状別に残留限度値を設けることで、意図しない THC 摂取を防ぐ という整理
  • 日本国内で半合成カンナビノイド(Δ8-THC、HHC など)や THC 混入製品が「合法な CBD 製品」として 2020 年代に流通した過去の経緯への対応
  • 「大麻由来かどうか」ではなく「製品中の THC 量」で判定することで、抜け穴を作りにくくする という設計思想

これらは厚生労働省・麻薬取締部が示している規制の根拠であり、その妥当性の評価は、国際機関の科学的評価(WHO ECDD など)や各国の運用実績と照らし合わせて、読者が判断すべき領域である。

関連する論点・影響

「枠組みの違い」が生む実務上のギャップ

最大の論点は、日本が 完成品の残留量(ppm) で、海外の多くが 原料植物の含有率(%) で線を引いているという 測定対象の違い にある。この差により、「海外で合法 = 日本でも合法」が成立しないケースが構造的に生じる。これは規制の厳しさ/緩さという一次元の話ではなく、基準の設計思想そのものの違い として理解する必要がある。

「故意」と「微量検出」をめぐる議論

2026 年の新浪氏の事案などをきっかけに、日本国内では 「実際の摂取量や健康リスクではなく、微量でも THC が検出されるかどうかで違法性が問われる」 点や、本人に違法の認識(故意)があったかどうか の扱いについて、現行の大麻取締法・麻向法の運用のあり方を問う議論が一部の専門家・業界から出ていると報じられている。

一方で規制側は、製品形状別に明確な残留限度値を設けることで 運用の予見可能性を高め、抜け穴を作りにくくする という設計だと説明している。また、故意や個別事情は 不起訴を含む司法判断の段階で考慮される 仕組みになっている。

どちらの見方に説得力があるかは、国際的な基準・科学的評価(別記事「CBD とは」の WHO 評価など)や各国の運用実績と照らして、読者が判断すべき領域である。本記事はいずれの立場も支持しない。

国際的な基準は動いている

EU の 0.2% → 0.3% への引き上げ(2023 年)、米国の総 THC 基準への移行(2025 年)、EIHA の 1.0% 提案(2026 年)など、各国の基準は固定的ではなく 継続的に見直されている。日本の枠組みが今後どう推移するかも、こうした国際動向と無関係ではない。

日本国内の位置づけ

日本国内では大麻草・大麻製品の所持・使用・栽培・輸出入は 大麻取締法および関連法令 により規制されている。本記事は規制の是非を主張するものではなく、各国基準の事実比較と、国内で報告されている課題を整理することを目的としている。製品の購入・使用にあたっては、最新の法令と医師・薬剤師等の専門家への確認が前提となる。

まとめ

日本の THC 規制は「製品形状別の残留限度値(ppm)」を主軸とし、米国・EU などの「乾燥重量に対する %」型とは 測定の枠組みそのものが異なる。この違いから、海外製フルスペクトラム製品の流通困難、製品回収事例、検査負担、CBN 指定に伴う事業影響、そして 2026 年 5 月に不起訴となったサントリー HD 元会長の個人輸入事案など、さまざまな摩擦が 業界・行政・報道で報告されている。一方で規制側は消費者保護と THC 乱用防止を根拠に挙げ、故意や個別事情は司法判断の段階で考慮される仕組みになっている。各国の基準は現在も見直しが続いており、本記事は「どちらが正しいか」を断ずるのではなく、事実と論点を提示することを目的とした。

出典

出典 — Sources

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