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米国の 2018 年農業改善法(通称 2018 Farm Bill)は、THC 含有量がごく低い「産業用ヘンプ」を連邦規制薬物法から除外 することで、米国のヘンプ・CBD 製品市場を一気に拡大させた。一方、「ヘンプ由来の物質はすべて連邦合法」と読める法律の定義から、Δ8-THC などの「法の抜け穴(ループホール)を利用した陶酔性製品」が一気に商業化された。この抜け穴は長く政策論争の的だったが、2025 年 11 月の歳出関連法によって陶酔性ヘンプ製品の禁止が法定化 され(2026 年 11 月施行予定)、状況は「議論」から「実装段階」へ移行した。本記事は 2026 年 5 月 17 日時点で確認できる範囲で経緯を整理する。

ざっくり言うと

  • 何が起きたか — 2018 年の米国農業法でヘンプが規制から外れて市場が急拡大したが、法の抜け穴を使った陶酔性ヘンプ製品(Δ8-THC など)が問題視され、2025 年に規制が法定化された
  • なぜ重要か — 「ヘンプは合法、大麻は違法」という線引きが現実には機能しなかったケースで、各国のヘンプ規制設計に直接影響する
  • 日本との関係 — 日本でも HHC や Δ8-THC などの半合成カンナビノイドが「指定薬物」として規制対象となっており、米国の経緯は議論の参考になる

経緯

2018 Farm Bill の成立

  • 2018 年 12 月 20 日: トランプ大統領(当時)が法案に署名、施行
  • ヘンプの定義: Cannabis sativa L. およびその一部・派生物質のうち、Δ9-THC 濃度が乾燥重量ベースで 0.3% 未満 のもの
  • 連邦規制薬物法(CSA)からヘンプ・ヘンプ由来カンナビノイドを 除外
  • USDA(米農務省)に 国内ヘンプ生産プログラム の所管を移管
  • 各州・部族政府が独自の生産プランを USDA に提出する仕組み

USDA の規則整備

  • 2019 年 10 月: USDA が国内ヘンプ生産プログラムの 暫定最終規則(Interim Final Rule)を公表
  • 2021 年 1 月: 最終規則(Final Rule)を公表
  • 認可ライセンス制、サンプリング・検査要件、Δ9-THC 0.3% 超過時の処分手順などが定められた

CBD 市場の急成長と FDA の対応

  • 2018-2020 年: CBD オイル、グミ、化粧品、ペット用製品などが急速に普及
  • FDA(食品医薬品局) は CBD を含む 食品・サプリメント・治療効能を謳う製品 の販売に対して継続的な警告書(Warning Letter)を発出
  • FDA は 2023 年 1 月、従来の食品・サプリメント規制では CBD を適切に管理できない とする声明を公表し、議会に新たな立法枠組みを要請したと報じられている

Δ8-THC ループホールの発生

  • 2020-2021 年: CBD から 酸性異性化反応 で半合成的に作られる Δ8-THC(デルタ-8-テトラヒドロカンナビノール)が商業流通開始
  • 法律上の根拠: 2018 Farm Bill は Δ9-THC のみを濃度規制対象としており、Δ8-THC やその他の異性体・派生物質には 明示的な濃度規定がない
  • 「ヘンプ由来であれば連邦合法」とする業界解釈のもと、ガソリンスタンド・コンビニ・オンラインで流通拡大
  • 製品形態は 食用グミ・ベイプ・チンキ など多岐にわたる

DEA・州レベルの対応

  • 2020 年 8 月: DEA が暫定最終規則を公表し、「合成的に製造されたカンナビノイド」は引き続き CSA 規制下にある との立場を表明したが、Δ8-THC が「合成」に該当するかは法的解釈論争となった
  • 2022 年 5 月: 第 9 巡回区連邦控訴裁判所が AK Futures LLC v. Boyd Street Distro, LLC 事件で、「Δ8-THC 製品は 2018 Farm Bill のヘンプ定義のもと連邦合法」 とする判断を示した(全国適用には限界あり、他の巡回区での同事件の判断は分岐の可能性あり)
  • 州レベルでは 複数の州が Δ8-THC を独自に規制 している(全面禁止、年齢制限、検査要件、表示規則など対応はまちまち)
  • 規制内容は各州で大きく異なり、全国統一基準が存在しない状況

ループホール閉鎖の法定化(2025-2026)

報道(Cannabis Business Times、Marijuana Moment、Perkins Coie 等の法律解説)によれば、2026 年 5 月時点で状況は以下の通り:

  • 2025 年 11 月: 政府機能再開のための歳出関連法にヘンプ条項が盛り込まれ、トランプ大統領が署名。陶酔性の消費者向けヘンプ製品の禁止 が法定された
    • 対象: 合成カンナビノイド(Δ8-THC 等)、非天然カンナビノイド(HHC 等)、THCA を含む総 THC が 0.3% 超 の製品、または容器あたり総 THC 0.4 mg 超の製品
    • 施行は署名から 1 年後の 2026 年 11 月 12 日 の予定。それまでは 2018 年枠組みのもとでヘンプ由来 THC 製品の製造・販売は引き続き合法
  • 2026 年 2 月 13 日: 下院農業委員長 Glenn “GT” Thompson 議員が 「2026 年農業・食料・国家安全保障法」(Farm, Food, and National Security Act of 2026)を提出、2 月 23 日に審議入り
  • 同 Farm Bill 案は、ヘンプの定義を 2018 年の「Δ9-THC のみ 0.3%」基準から「THCA を含む総 THC 0.3%」基準へ再定義 する方向
  • 産業用ヘンプ生産者向けには、USDA・州・部族による検査要件・身元調査の 緩和または撤廃 を認める規定も含まれるとされる
  • これらにより、嗜好品志向のヘンプ由来 THC 製品市場と、繊維・穀物・非陶酔性 CBD を扱う産業用ヘンプ農家の 利害が法制度上で明確に分離 される方向にある

関連する論点・影響

公衆衛生

  • Δ8-THC 製品関連の 救急搬送・誤食事例(特に小児) が複数の州で報告されている
  • 製品ラベルの正確性・THC 含有量・不純物の問題が CDC・FDA レポートで言及されている

産業

  • ヘンプ繊維・建材・食品 などの伝統的産業用途と、Δ8-THC を含むカンナビノイド商業化 は別市場として扱われる流れ
  • 産業用ヘンプ農家は CBD 価格暴落(2020 年以降)で打撃を受け、繊維・種子用途への転換が進んでいるとされる

国際的な位置づけ

  • 米国の 0.3% THC 基準 は EU(従来 0.2%、2023 年に 0.3% に統一)、カナダ(0.3%)、日本(2024 年改正法以降の規定)などの国際基準と概ね整合
  • ただし 「全 THC」基準と「Δ9-THC のみ」基準の違い は国際市場で輸出入の障壁となっている

日本との関係

  • 日本国内では HHC(ヘキサヒドロカンナビノール)、HHC-O、HHC アセテートなど が指定薬物制度のもとで順次規制対象となってきた経緯がある
  • Δ8-THC は 2024 年改正大麻取締法以降、麻薬及び向精神薬取締法のもとで THC 異性体として管理対象 に含まれると解釈されている(関連記事「指定薬物制度と HHC など類似成分」参照)
  • 日本国内では Δ8-THC を含む製品の所持・販売は違法

出典

出典 — Sources

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