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HHC(ヘキサヒドロカンナビノール、Hexahydrocannabinol)は、Δ9-THC または Δ8-THC の 二重結合を水素化 して飽和させた半合成カンナビノイド。1940 年に米国の化学者ロジャー・アダムス(Roger Adams)が初めて合成・薬理試験を報告した古い物質だが、商業的に流通したのは 2021-2022 年以降。日本では 2022 年 3 月 17 日施行で指定薬物 に指定された。

ひとことで言うと

「THC の二重結合をなくして安定化させた」80 年以上前から知られていた物質。2020 年代に「Farm Bill 抜け穴の合法 THC」として急に流通し、日本でもいち早く規制対象に加わった。

概要

  • 化学的位置づけ: Δ9-THC または Δ8-THC のシクロヘキセン環内の 二重結合を水素化 して飽和させた構造
  • CB1 受容体: (9R)-HHC エピマーは Δ9-THC とほぼ同等の作動性。(9S)-HHC エピマーは活性が大幅に低下
  • 精神作用: Δ9-THC とほぼ同等(主要エピマーの場合)とユーザーレポート・前臨床研究で報告
  • 植物中の存在量: 極微量(花粉などに痕跡量)。商業流通品はほぼすべて CBD/THC からの水素化 による半合成
  • 初合成: 1940 年、米国の Roger Adams が PtO₂ 触媒で Δ9-THC を水素化 して合成
  • 日本規制: 2022 年 3 月 17 日施行で指定薬物に指定
  • 国際: EU では 2022 年 10 月から EMCDDA の早期警報システム で監視対象。世界保健機関 (WHO) ECDD は 47 回会合 (2024 年) で評価レポートを発行

詳細

化学的位置づけと合成法

HHC は Δ9-THC または Δ8-THC の シクロヘキセン環内の C=C 二重結合に水素を付加 して飽和した構造。THC のテルペンフェノール骨格は維持しつつ、二重結合がなくなることで化学的に安定化 する(光・酸素による分解に強くなる)。

主要な合成経路:

  1. Δ8-THC または Δ9-THC + 水素ガス + 白金または Pd 触媒 → HHC
  2. CBD → 酸触媒で異性化 → Δ8-THC → 水素化 → HHC (商業流通の主流ルート)

合成段階で (9R)-HHC(9S)-HHC2 つのエピマー(立体異性体) が生成する。これらは混合物として得られることが多く、市販品は通常エピマー比が表示されない。

エピマーによる活性の違い

近年の研究 (Russo ら 2023 Scientific Reports) で、HHC の 2 つのエピマーは薬理活性が大きく異なる ことが示された:

  • (9R)-HHC: CB1 受容体への結合親和性が高く、Δ9-THC とほぼ同等の精神作用
  • (9S)-HHC: CB1 親和性が大幅に低く、精神作用も弱い

このため、市販 HHC 製品の エピマー比 によって実際の効果が大きく変わる可能性がある。製品ラベルでは表示されないことが多いため、消費者保護上の課題となっている。

1940 年代の発見と「忘れられた 80 年」

HHC は 1940 年に米国イリノイ大学の Roger Adams が、Δ9-THC を 酸化白金 (PtO₂) 触媒で水素化 することで合成・薬理試験を報告した(Journal of the American Chemical Society 掲載)。同時期に Adams は THC の構造解明と各種誘導体合成 のプロジェクトを進めており、HHC はその一環として作られた化合物。

その後 80 年以上、HHC は 学術文献に登場するだけの忘れられた誘導体 だった。2010-2020 年代に米国で「合法 THC」の半合成カンナビノイド市場が形成される中で、Δ8-THC や THC-O アセテートと並んで 「Farm Bill の抜け穴を使える物質候補」 として再発掘され、2021-2022 年から商業流通が爆発的に拡大した。

受容体への作用と精神作用

HHC の薬理プロファイル:

  • (9R)-HHC: CB1 部分作動薬として Δ9-THC とほぼ同等の精神作用
  • (9S)-HHC: CB1 親和性が低く、精神作用は弱い
  • 標識検査では Δ9-THC とは異なる代謝物パターンを示す可能性が研究されている (薬物検査での検出有無に関わる論点)
  • 急性中毒症状は Δ9-THC と類似(不安・パラノイア・心拍数上昇等)

日本における規制の経緯

  • 2021 年後半: 欧州・米国で HHC 製品の流通が拡大
  • 2022 年 3 月 7 日: 厚生労働省が HHC を含む 6 物質を指定薬物に追加する省令を 公布
  • 2022 年 3 月 17 日: 省令施行で HHC は指定薬物として規制対象に。流通拡大からわずか数か月での迅速な規制対応として注目された
  • 指定薬物指定により、HHC の 製造・輸入・販売・授与・所持・使用 が原則禁止
  • 違反は薬機法 (医薬品医療機器等法) に基づき 3 年以下の懲役または 300 万円以下の罰金(法人重課あり)

詳しくは別記事「指定薬物制度と HHC など類似成分」を参照。

国際的な規制状況

  • EU: 2022 年 10 月 21 日から EMCDDA の早期警報システム で「監視対象の新精神作用物質(NPS)」第 1 号として登録。複数の加盟国が個別に規制
  • WHO ECDD: 47 回会合 (2024 年) で 臨界レビューレポート を発行し、国際スケジューリングを検討中の段階
  • 米国: 2025 年 11 月の連邦農業法改正で 化学合成カンナビノイドが全面禁止 となり、HHC も対象に。2026 年後半に施行予定
  • UK・カナダ・オーストラリア・スイス: 個別の規制で HHC を取り締まる動きが進行

日本国民の海外渡航時のリスク

  • 海外で HHC 製品を購入・摂取し、帰国時に持ち帰る・体内に残留したまま入国するケースが摘発の対象
  • 国外犯規定により、海外での HHC 使用が日本法上処罰される可能性がある
  • HHC を含む製品は欧州・米国の一部地域では依然として(規制施行前段階で)流通しているため、渡航時の 明示的な禁止物質確認 が必要

現在の論点・最新動向

エピマー混合の品質管理問題

HHC の市販製品は (9R)-HHC と (9S)-HHC の混合物 であることが多く、エピマー比が製品ごとに異なる。(9R) 優位の製品は強い精神作用、(9S) 優位の製品は弱い精神作用 となるため、消費者は予測しづらい状況にある。第三者試験 (HPLC・キラル分析) の標準化が課題。

Δ9-THC との薬理学的差異の研究

「HHC は Δ9-THC と何が違うのか」については、代謝物パターン薬物検査での検出有無急性中毒症状の差 などの研究が継続中。Russo ら (2023)、ECDD レポート (2024) を含めて、薬理学的・毒性学的データが蓄積されつつあるが、依然として古典的 THC ほどには研究の蓄積はない。

派生品種 HHC-O・HHC-P の登場

HHC の派生として HHC-O アセテート(アセチル化体)、HHC-P(ペンチル鎖延長型でより強力とされる) が登場し、流通している。日本では HHC と同様に指定薬物に順次追加されている。

まとめ

HHC は 1940 年に Roger Adams が合成・報告 していた古い半合成カンナビノイドが、2020 年代の 米国 Farm Bill 抜け穴市場 で再発掘され、急速に流通拡大した物質。Δ9-THC を水素化して二重結合を飽和させた構造で、(9R) エピマーは Δ9-THC とほぼ同等の精神作用 を持つ。日本では 2022 年 3 月 17 日施行で指定薬物 に指定され、製造・輸入・販売・所持・使用が全面禁止。海外渡航時の国外犯規定にも注意が必要。本記事は規制動向の解説を目的としており、特定の使用や製品購入を推奨するものではない。

出典

出典 — Sources

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