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45℃ に晒された大麻で、80 時間を境に THC と CBD が減っていった——韓国と米国の研究チームが、そんな結果を報告した。論文は学術誌 Plant Stress の 2026 年 9 月号に掲載されている。

カンナビノイドを作る遺伝子の働きが落ちる一方で、植物のほうは 熱ショックタンパク質やフェノール類を大量に増やして、なんとか耐えようとしていた。

**気温が上がると、大麻は成分を作るどころではなくなる。**作物としての大麻にとって、これは無視できない話である。

ざっくり言うと

  • 45℃80 時間を過ぎたあたりから、総 THC と総 CBD が対照区より低下した
  • 同時に、カンナビノイドを合成する遺伝子群の活性が低下していた
  • 植物側は防御に振り切っていた。総フェノール量は約 10 倍、フラボノイドは約 9 倍に増加
  • **細胞は傷んでいた。**過酸化水素は対照の 7.79 倍、細胞膜の損傷指標(マロンジアルデヒド)は 7 倍

何を調べたのか

  • 論文: 「Biochemical responses and endpoint RNA-seq level profiling of Cannabis sativa L. cv. Pink Pepper under heat stress」
  • 著者: Ryu B-R、Kim M-J、Kang M-J、Richards C.D.、Kwon T-H、Park S-H、Lim J-D
  • 所属: 韓国の 江原大学校、米国の コロラド州立大学プエブロ校 大麻研究所、韓国の 春川バイオ産業財団
  • 対象: Pink Pepper という CBD 優位のヘンプ品種
  • 条件: 45℃ と、対照区の 23℃ を比較
  • 時間: 40 時間 / 80 時間 / 160 時間の 3 時点で測定

結果

カンナビノイドは減った

80 時間を過ぎた時点で、総 THC と総 CBD がいずれも対照区を下回った

そして RNA-seq(遺伝子の働きを網羅的に調べる手法)による解析で、カンナビノイドの生合成に関わる遺伝子群の活性が下がっていることが確認された。単に分解されたのではなく、作る働きそのものが鈍っていたということになる。

細胞は傷んでいた

酸化ストレスと細胞膜の損傷を示す指標が、早い段階から跳ね上がっていた。

指標40 時間時点(対照比)
過酸化水素(H₂O₂)7.79 倍
マロンジアルデヒド(MDA)7 倍

いずれも 160 時間まで高いままだった。マロンジアルデヒドは、細胞膜の脂質が酸化されて壊れるときに生じる物質で、膜が傷んでいることの目印として使われる。

植物は防御に切り替えていた

一方で、植物が自分を守るための物質は大幅に増えていた。

  • 総フェノール量: 約 10 倍
  • フラボノイド: 約 9 倍
  • プロリン可溶性糖: いずれも大きく増加

フェノール類とフラボノイドは、活性酸素を打ち消す働きを持つ。プロリンや糖は、細胞内の水分バランスを保ち、タンパク質の構造を守るのに関わるとされる。

160 時間後の遺伝子解析では、熱ショックタンパク質タンパク質の折りたたみに関わる遺伝子群の活性が上がっていた。熱で変性しかけたタンパク質を正しい形に戻そうとする仕組みである。

つまりこの植物は、カンナビノイドを作ることをやめて、生き延びるほうに資源を回していた——そう読める結果だった。

「増えた」と報じられることもある——酸性型と中性型

ここは注意が要る。高温でカンナビノイドが「増えた」とする報告も存在する。

韓国園芸学会の学術誌に 2025 年に掲載された別の研究では、3 つのヘンプ品種の葉から採った試料を 45℃ に晒したところ、CBD と CBN の含有量は増加した一方で、THCA と CBDA はわずかに減少したと報告されている。

一見すると矛盾するが、そうではない。**THCA と CBDA は「酸性型」**で、植物が実際に作っているのはこちらである。これらは 熱を加えると脱炭酸して、THC や CBD といった「中性型」に変わる

つまり「加熱で CBD が増えた」は、新しく作られたのではなく、もともとあった CBDA が変化しただけでありうる。何を測ったのかを確認しないと、逆の結論を引き出してしまう。

酸性型と中性型の違いは、別記事「酸性カンナビノイドと活性型カンナビノイド」で詳しく扱っている。

今回の Plant Stress の研究が 総 THC・総 CBD(酸性型を換算して合算した値)で低下を報告し、かつ 生合成遺伝子の活性低下まで確認しているのは、この落とし穴を避けるうえで意味がある。

注意点(この研究の限界)

  • 単一品種である。使われたのは CBD 優位のヘンプ Pink Pepper 1 品種のみ。研究チーム自身、他の品種や圃場条件での検証が必要だとしている
  • 管理された条件下での実験であり、実際の畑では日射・湿度・風・土壌水分などが複雑に絡む
  • 45℃ を 160 時間という条件は、かなり厳しい設定である。実際の熱波がこの通りとは限らない
  • 嗜好用の高 THC 品種で同じことが起きるかは、この研究からは分からない

なぜこれが問題になるのか

大麻は、成分の含有量が そのまま商品価値になるという、やや特殊な作物である。小麦や米であれば収量が問題になるが、大麻では **「同じ重さでも中身が違う」**ことが直接的に効く。

そして栽培地は、カリフォルニア、コロラド、スペイン南部、タイなど、もともと夏の暑い地域に多い。屋内栽培であれば空調で制御できるが、それは 電力コストという別の問題になる(屋外栽培をめぐる動きは、別記事でも扱った)。

気温の上昇が続けば、屋外で作れる場所が変わる——今回の研究は、その可能性を分子レベルで裏づけた一例といえる。

読み方

この研究が示したのは「暑いと質が落ちる」という単純な話ではなく、植物が何を優先したかである。

カンナビノイドは、植物にとって本来 防御のための物質だと考えられている。その植物が、より深刻な脅威に晒されたとき、カンナビノイドではなくフェノール類と熱ショックタンパク質を選んだ。人間が価値を置いている成分と、植物が生き延びるために必要な成分は、必ずしも一致しない——ということでもある。

なお日本国内では、大麻草の 栽培は「大麻草の栽培の規制に関する法律」により免許制で厳格に規制されている。本記事は公表された植物科学の研究の解説であり、栽培を勧めるものではない。

出典

出典 — Sources

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