HighWide 大麻情報メディア

元論文: Expansion and functional diversification of terpene synthases shape volatile terpenoid landscape in Cannabis sativa / Acta Pharmaceutica Sinica B 2026年8月号 16(8):5487–5503(オンライン先行公開 2026年3月24日) / Mi, Zhang, Sun ら(中国・東北林業大学、中国中医科学院 中薬研究所ほか)

大麻草の香りをつくる テルペンについて、これまでで最も網羅的な解析が報告された。6 品種・28 検体から 227 種類の揮発性テルペンが検出されている。

一方で、相対存在量が 1% を超えたのは 22 種だった。そして 最も多かった 5 種のなかに、品種表示でおなじみのカリオフィレンもリモネンも入っていない。

当サイトの品種図鑑は、各品種に「主要テルペン」を 3 つ載せている。その 3 つが何を代表しているのかを、この論文は正面から問うてくる。

この論文がわかる 3 行

  1. 6 品種 28 検体で 227 種の揮発性テルペンを同定(モノテルペン 88、セスキテルペン 139)。ただし 1% を超えたのは 22 種で、残りは微量である
  2. 品種をまたいで最も多かったのは β-ミルセン、trans-β-オシメン、テルピノレン、(−)-β-ピネン、α-ピネン の 5 種。カリオフィレンとリモネンは入っていない
  3. ゲノムから 全長のテルペン合成酵素遺伝子 41 個を同定し、未報告の 6 個の機能を確認。ただし酵素の検証は 大腸菌とタバコを使った異種発現であり、大麻草そのものの中で確かめたものではない

用語の整理(先に最低限だけ)

  • テルペン — 植物がつくる揮発性の香り成分。大麻の品種ごとの匂いの個性をつくる。モノテルペン(炭素 10 個)は軽く揮発しやすく、セスキテルペン(炭素 15 個)は重く残りやすい
  • テルペン合成酵素(TPS) — テルペンを合成する酵素。遺伝子としては CsTPS と表記される
  • ハプロタイプ分離ゲノム — 大麻は父方・母方に由来する 2 組の染色体を持つ。両者を 混ぜずに別々に読み解いたゲノム。従来は 1 組にまとめて扱われることが多く、2 組のあいだの違いが見えなかった
  • 異種発現 — ある生物の遺伝子を、大腸菌や酵母など 別の生物に入れて働かせ、何ができるかを調べる手法

何を調べた研究か

材料

中心となったのは Dinamed Kush(DK) という品種で、Purple Kush × Dinamed CBD の自動開花性(オートフラワー)フェミナイズド交配種である。この品種について ハプロタイプ分離ゲノムが用意された。

比較対象として、市販の 5 品種——Painkiller、Swisse Dream、Terra Italia、George Gloria、Red Pure——が使われた。

すべて 26 ℃・相対湿度 70% の管理環境で栽培されている。環境条件を揃えてあるので、品種間の差は栽培環境の差ではない。

採取

28 検体の内訳は次のとおり。

  • DK の発育シリーズ 10 検体 — 発芽 7 日後から開花前まで週 1 回、葉を採取。開花後は最初の 3 週(雌しべの褐変が 50% 未満)を「開花初期」とし、花・苞・葉を採取
  • 6 品種の比較 18 検体 — 開花後期に、花・苞・葉を採取

根と種子も対象に含まれている。

わかったこと

1. 227 種、ただし大半は微量

227 種(モノテルペン 88、セスキテルペン 139)が検出された。

ただし論文の図では 相対存在量が 1% 未満のものは表示されていない。そして著者が外部標準法で 絶対定量したのは 22 種である。

つまり「227 種類ある」は 検出できた種類の総数であって、どの品種にも 227 種が意味のある量で入っている、という話ではない。しかもこれは 6 品種 28 検体を合わせた延べの数である。

2. 上位 5 種に、ラベルの常連がいない

品種をまたいで最も多かった 5 種は次のとおり。

順テルペン香りの傾向
1β-ミルセン土、ハーブ
2trans-β-オシメン甘く青い、花
3テルピノレン松、かすかな柑橘
4(−)-β-ピネン松
5α-ピネン松

カリオフィレンもリモネンも入っていない。 この 2 つは、品種データベースや小売の表示では最頻出の部類である。

ただし 品種ごとに見ると様相が変わる。

  • Red Pure — β-ミルセンとテルピネンが多い
  • George Gloria — グアイオールとカンフェンが多い
  • Dinamed Kush — カリオフィレンとフムレンが多い

同じ 6 品種のなかでも、どのテルペンが主役かは品種で入れ替わる。「大麻のテルペンといえばこれ」という一般化が、そもそも難しいということである。

3. 部位と時期で、まったく別物になる

著者は 花序を「ホットスポット」、根と種子を「揮発性の沈黙(volatile silence)」 と表現している。テルペンは主に 腺毛(トリコーム)の樹脂に蓄積するため、部位による差が非常に大きい。

時期による差も大きく、同じ品種でも発育段階が変われば香りの構成が変わる。

4. 遺伝子は 41 個、うち 6 個を新たに機能同定

DK のゲノムから 全長の CsTPS 遺伝子 41 個が同定された。従来の研究では 1 ゲノムあたり約 30〜50 個が報告され、機能が確かめられていたのは全品種を合わせて約 29 酵素だったので、そこに 6 酵素が加わったことになる。

酵素ごとに働く場所も違っていた。

  • CsTPS27 — 若い花序だけ
  • CsTPS19 / 23 / 26 — 開花後期に多い
  • CsTPS28 — 葉に偏る
  • CsTPS37 — 根に特異的

根はほとんど揮発性テルペンを出さないのに、根だけで働く TPS 遺伝子がある。著者はこれを、揮発しないセスキテルペン由来の代謝物やトリテルペノイドの供給と結びつけて説明している。

また、2 組のハプロタイプのあいだで遺伝子の構造に食い違いがあった。父方由来と母方由来で、持っている酵素の並びが同じではないということである。

5. 過去の報告が一つ否定された

CsTPS3 については、以前に報告されていたリモネン合成酵素としての活性を確認できなかったと明記されている。

新しい発見だけでなく、先行研究の訂正が含まれている点は、この論文の誠実さを示す部分といえる。

限界と注意点

1. 酵素の機能は「大麻の外」で確かめられている

著者自身が限界として挙げている。6 つの酵素は 大腸菌(GPP・FPP を多く作るよう改変した株)と タバコ(Nicotiana benthamiana) に遺伝子を入れて働かせたもので、大麻草の中で同じ働きをしている証明ではない。

さらに、より幅広い基質での検証も、酵素反応速度の測定も行われていない。著者は「発現系の最適化や、大麻組織からの酵素精製が今後必要」と書いている。

2. 遺伝子の発現量では、テルペン量を説明できない

著者は「テルペンの蓄積は、転写量だけでは説明できない複雑な制御を受けている」と述べている。つまり 遺伝子がよく働いている = そのテルペンが多い、とは限らない。

3. 品種は 6 つだけ

網羅的といっても 6 品種である。世界で流通する品種の数を考えれば、ごく一部にすぎない。うち 1 品種(DK)は オートフラワーの CBD 系交配種で、嗜好用市場の主流とは性質が異なる。

4. 「アントラージュ効果」は前提であって結論ではない

論文の導入では、テルペンが「アントラージュ効果を通じて治療効果を調節する」と書かれている。これは 研究の動機として置かれた記述であり、この論文が検証したことではない。

アントラージュ効果(カンナビノイドとテルペンが協働して効果を変えるという考え)は、ヒトでの臨床的な裏づけが十分ではない。本論文は植物側の化学と遺伝子を扱ったもので、人体での作用を示すものではない。

私たち読者が知っておくべきこと

この論文は、大麻の香りの多様性が、どの遺伝子のどんな働きから生まれているかを、これまでで最も細かく描いたものである。

そのうえで、読者にとって実用的な含意は次の点になる。

  • 「主要テルペン 3 つ」は、大幅に要約された情報である。 検出されるものは桁違いに多く、しかも上位の顔ぶれは品種で入れ替わる
  • 同じ品種名でも、部位・収穫時期が違えば香りの構成は変わる。 表示されている値がいつのどの部分のものか、通常は示されない
  • 表示に出てくる定番(カリオフィレン、リモネン)が、実際の上位とは限らない。 何を「主要」と呼ぶかは、測り方と対象の選び方に依存する

当サイトの品種記事も、各品種に主要テルペンを 3 つ載せている。これは品種の個性をつかむための要約であって、含有成分の一覧ではない。この論文は、その要約がどれだけのものを省いているかを具体的な数字で示してくれる。

品種分類そのものの限界については、コラム「「インディカ=眠い」は本当か——品種分類の科学と限界」でも扱った。テルペンと受容体の関係については「大麻テルペンがカンナビノイド受容体を直接活性化」を参照。

日本国内の位置づけ

本研究は大麻草の 植物化学・ゲノム解析に関する基礎研究(中国の研究チームによる)であり、大麻の使用を勧めるものではない。日本国内では大麻草・大麻製品の所持・使用・栽培・輸出入は 大麻取締法および関連法令 により規制されている。本記事は海外の研究の解説を目的としている。

出典

  • Mi, Y., Zhang, M., Zhang, K., Li, J., Yan, S., Zhu, X., Wang, L., Du, Y., Wang, S., Cao, X., Chen, S., Xu, Z., & Sun, W. (2026). “Expansion and functional diversification of terpene synthases shape volatile terpenoid landscape in Cannabis sativa”. Acta Pharmaceutica Sinica B, 16(8), 5487–5503. オンライン先行公開 2026年3月24日. DOI: 10.1016/j.apsb.2026.03.035. PMID: 42592043. 全文: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13464084/

出典 — Sources

この記事がよかったら

コメント
    0 / 600

    リンクや売買・勧誘とみなされる投稿、他者を傷つける表現はご遠慮ください。投稿は公開されます(不適切なものは削除される場合があります)。

    この記事をシェア

    Related

    この記事を読んだ人はこちらも