コラム — 深掘り — 日本
日本最古の大麻——縄文の地層から出た果実と縄
日本と大麻の関係は、いつから始まったのか。答えは、房総半島の小さな島の地層にある。千葉県館山市の 沖ノ島遺跡から、縄文時代早期のアサ(Cannabis sativa)の果実が見つかっている。研究者が 「果実化石としては世界最古の産出記録」 と報告したものだ。
現在の日本では、大麻草の所持・使用・栽培は大麻取締法および関連法令により厳しく規制されている。だがその同じ植物が、一万年前のこの列島の暮らしのなかにあった——考古学と植物学の報告は、そう示している。この記事は、学術報告をたどりながら、日本最古の大麻の記録を整理する。
2008 年、植物学の専門誌『植生史研究』に、小林真生子・百原新・沖津進・柳澤清一・岡本東三の各氏による論文「千葉県沖ノ島遺跡から出土した縄文時代早期のアサ果実」が掲載された。
報告によれば、千葉県館山市の沖ノ島遺跡の 縄文時代早期の地層から、アサ(Cannabis sativa)の果実が出土した。その形やサイズは現代のアサの果実とよく似ており、著者らは 「果実化石としては世界最古の産出記録である」 と明記している。
さらに著者らは、**「沖ノ島遺跡でアサが栽培利用されていた可能性が考えられる」**とも述べている。自生していたものをたまたま拾ったのか、人が育てて使っていたのか——後者の可能性が、専門家の口から慎重に語られているということだ。
なお「アサの果実」という言い方は植物学の用語で、私たちが日常的に「麻の実」と呼ぶものにあたる。痩果(そうか) という、果皮が種子に密着した固い実である。
もう一つの重要な現場が、福井県三方上中郡若狭町の 鳥浜貝塚だ。縄文時代草創期から前期(およそ 1 万 2000 年前〜5000 年前) にわたる長期の遺跡で、低湿地の水漬け状態だったために、通常なら腐って消える有機物が驚くほど良好に残っていた。
ヒョウタン、ウリ、ゴボウ——そして アサ。ここでは 繊維の形でアサが確認されており、沖ノ島の果実に先立つ、より古い時期の例として位置づけられている。1962 年に立教大学と同志社大学の共同調査で始まり、その後 10 次にわたって発掘が続けられた、日本の縄文研究を代表する遺跡の一つである。
つまり、繊維としては鳥浜貝塚がより古く、果実としては沖ノ島遺跡が世界最古、という整理になる。
こうした出土例は、全国的にも集成されている。国立歴史民俗博物館研究報告 187 集(2014 年)には、工藤雄一郎・一木絵理の両氏による「縄文時代のアサ出土例集成」が収録され、各地の事例が体系的にまとめられている。
出土する部位から推測できる用途は、大きく二つだ。
ここで押さえておきたいのは、縄文の人々が現代でいう「嗜好目的」で使っていたことを示す証拠は、これらの報告にはないという点だ。出土しているのは繊維と果実であり、そこから読み取れるのは 生活の道具と食料としてのアサの姿である。断片的な遺物から当時の用途を断定することはできない、という慎重さは、研究者自身が保っている。
もう一つの論点は、このアサがどこから来たのか、である。アサの原産地は中央アジア方面と考えられており、日本列島のアサが 人の移動とともに持ち込まれたのか、それとも 早い段階から自生していたのか は、簡単には決められない。
沖ノ島遺跡の報告が「栽培利用の可能性」に触れているのは、この問いにつながる。もし縄文早期の段階で人が育てていたのなら、アサはきわめて早くから人と共にあった植物ということになる。世界の大麻の系譜——各地の環境に根づいた在来種の話は、別記事「ランドレースとは何か」でも扱っている。
縄文から近代まで、日本でアサは主に 繊維作物として栽培され、衣類・漁網・縄・神事の用具などに使われてきた。この長い関係が大きく変わるのは 20 世紀、とりわけ戦後の法制度によってである。
現在、日本国内では大麻草・大麻製品の 所持・使用・栽培・輸出入は大麻取締法および関連法令(現・大麻草の栽培の規制に関する法律、麻薬及び向精神薬取締法)により規制 されている。2024 年 12 月の改正以降の枠組みは、別記事「日本の大麻ルールはいま」で整理した。
一万年前の地層から出た小さな果実は、その現在地を相対化してくれる。この植物は、日本列島の暮らしのなかに、驚くほど長くいた——それが、考古学の報告が静かに示している事実だ。本記事は歴史的・植物学的な解説を目的としており、いかなる使用も推奨するものではない。
出典 — Sources
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