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アムステルダム市の新しい 連立合意に、観光客のコーヒーショップ利用を禁じる規定は 入らなかった。市内の約 166 店は、これまでどおり海外からの訪問者にも開かれたままとなる。

数年にわたって議論されてきた「観光客お断り」案は、こうして事実上たなざらしになった。代わりに市が選んだのは、宿泊税の大幅な引き上げである。最終的に 20% まで上がる見込みで、欧州でも最高水準になる。

ただし、日本から訪れる人にとっては、これとはまったく別の注意点がある。後半で触れる。

ざっくり言うと

  • 何が起きたか — 2026 年 6 月 3 日に発表された連立合意に、「居住者基準」(i 基準) が盛り込まれなかった。観光客は引き続きコーヒーショップを利用できる
  • 代わりに何が — 宿泊税を 12.5% → 16%(2027 年)、その後 毎年 1 ポイントずつ 引き上げて 20% へ。税収は 2027 年に約 6,000 万ユーロ、最終的に約 7,500 万ユーロを見込む
  • 日本との関係 — オランダで許容されていても、日本には国外犯処罰規定があり、日本人が海外で大麻を使用した場合も日本の法律の適用対象になりうる

何が決まったか

新しい連立を組んだのは、PRO Amsterdam(労働党 PvdA と緑の左派 GroenLinks が合流した会派)と D66 である。6 月 3 日に発表された合意文書は「Jouw stad is mijn stad. Ons Amsterdam」(あなたの街は私の街。私たちのアムステルダム)と題されている。

この文書に、居住者基準の導入は書かれなかった。フェムケ・ハルセマ市長は長年この基準の導入を求めてきたが、市議会は 2026 年もまた、観光客を締め出さない選択をしたことになる。

「居住者基準」とは何か

オランダのコーヒーショップ制度を理解するうえで、この基準は避けて通れない。

居住者基準(ingezetenencriterium、通称 i 基準)は、コーヒーショップの利用をオランダ在住者に限るという国の方針である。導入の経緯はこうだ。

  • 2012 年 5 月 1 日 — 南部 3 州(リンブルフ、北ブラバント、ゼーラント)で先行導入。会員制を義務づける「閉鎖クラブ基準」とセットで、「ウィートパス」(wietpas) と呼ばれた
  • 2012 年 11 月 19 日 — 閉鎖クラブ基準は廃止。利用者が「大麻の購入者」として登録されることを嫌ったことが大きい
  • 2013 年 1 月 1 日 — i 基準そのものは全国に拡大

ただし、実際に運用するかは各自治体の判断に委ねられてきた。国境に近い一部の自治体を除けば、多くのコーヒーショップ都市で観光客は利用できる状態が続いている。アムステルダムは、その代表格だ。

制度としては存在するのに、運用されていない——という状態が 十数年続いていることになる。

代わりに上がるもの

観光客を追い返さない代わりに、市は 払う額を上げる方を選んだ。

時期宿泊税(宿泊料金に対する割合)
現在12.5%
2027 年16%
以後毎年 1 ポイントずつ引き上げ
最終的に20%

市は、清掃・公共空間の維持・取り締まりなど 観光にともなう費用を、より訪問者側に負担してもらう狙いだと説明している。税収は 2027 年に約 6,000 万ユーロ、最終的に約 7,500 万ユーロを見込む。

宿泊料金に対する割合としては、欧州で最も高い水準になる。

訪問者に適用されるルール

締め出しがなくなったとはいえ、コーヒーショップの利用にはもともと細かい条件がある。現時点で報じられている主なものは次のとおり。

  • 18 歳以上。身分証の提示を求められる(25 歳未満に見える場合は必ず確認される)
  • 1 回に購入できるのは 5 グラムまで
  • 公共の場での喫煙が禁止された区域がある。デ・ワレン(いわゆる飾り窓地区)、ダム広場、ダムラック、ニーウマルクトが対象で、違反すると 100 ユーロの過料
  • 店舗側にも、広告の禁止・未成年への販売禁止・ハードドラッグの取り扱い禁止といった条件が課されている

オランダでは「合法」ではない

よく誤解されるが、オランダで大麻が合法化されているわけではない

オランダの制度は 許容政策(gedoogbeleid) と呼ばれる。大麻は オランダのアヘン法(Opiumwet) において引き続き規制物質(いわゆるソフトドラッグとして同法のリスト II)に位置づけられており、2026 年時点でも法律上は違法である。そのうえで、一定の条件を満たす小売については 訴追しないという運用が採られている。店頭で買えることと、法律が認めていることは、この国では同じではない。

各国の制度の違いは、別記事「医療大麻は国ごとに何が違うのか」や「世界の合法化マップ」も参照。

日本から行く人にとっての注意

ここが本記事でいちばん重要な点である。

**日本の法律には国外犯処罰規定がある。**外務省および在外公館は、大麻について「日本では大麻取締法、麻薬及び向精神薬取締法において、使用・所持・譲受(購入を含む)等については違法とされ、処罰の対象となっています。この規定は日本国内のみならず、海外において行われた場合であっても適用されます」と明示している。

さらに、2024 年 12 月 12 日に施行された改正法で、日本では 大麻の「使用」そのものが処罰の対象になった。所持の罰則も引き上げられている(制度の全体像は「日本の大麻ルールはいま」を参照)。

つまり、

  • アムステルダムのコーヒーショップで購入・使用することは、現地の運用では許容されている
  • しかし日本国籍の人がそれを行った場合、日本の法律の適用対象になりうる

この二つは矛盾しない。現地で咎められないことと、帰国後に日本法の対象にならないことは別の話である。

本記事は制度と現地の状況を解説するものであり、渡航先での大麻の購入・使用を推奨するものではない

読み方

この決定は「アムステルダムが大麻に寛容になった」という話ではない。むしろ 観光そのものへの姿勢の変化として読むほうが正確だろう。

市は近年、観光客の総量を抑える方向の施策を積み重ねてきた。飾り窓地区での喫煙禁止、迷惑な観光客に向けた「来ないでくれ」キャンペーン、そして今回の宿泊税引き上げ。そのなかで コーヒーショップの締め出しだけは採らなかった、という構図である。

観光客を選別するのではなく、来る人により多くを負担させる——手段を入れ替えたとみるのが実態に近い。

出典

出典 — Sources

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