HighWide 大麻情報メディア

デンマークの医療大麻制度が、2026 年 1 月 1 日に恒久化された。2018 年から 8 年間続いた 試験制度(pilot programme) が、そのまま常設の仕組みに移行した形である。

移行の直前、2025 年の処方は 22,410 件。前年の 13,665 件から 64% 増えた。患者数も 1,605 人から 2,465 人へ 54% 増。

一方で、この制度には 補助金の配分が逆転したままという問題が残っている。

ざっくり言うと

  • 何が決まったか — 法案 L135 が 2025 年 4 月 24 日に可決され、2026 年 1 月 1 日施行。試験制度は 2025 年 12 月 31 日で終了し、恒久制度に置き換わった
  • どれだけ使われているか — 2025 年の処方 22,410 件 / 患者 2,465 人。ただし人口約 590 万人の国で 患者は 0.04% 程度にとどまる
  • 残っている問題 — 規格化された製品の補助率は 37%、薬局が個別に調製する製剤は 85%。品質管理された製品のほうが、公的支援が薄い

何が起きたか

デンマークは 2018 年 1 月 1 日に医療大麻の 試験制度を開始した。期限つきで始め、運用しながら評価して、恒久化するかどうかを判断するという設計である。

その判断が出た。法案 L135 が 2025 年 4 月 24 日に可決され、2026 年 1 月 1 日から恒久制度が動き出した。

制度を所管するのは デンマーク医薬品庁(Lægemiddelstyrelsen) で、栽培・製造・輸入・流通の許可発行も担う。

デンマークの「4 つの処方経路」

この国の制度は、大麻由来の治療を 4 つに分けている。混同されやすいので整理しておく。

内容例
① 承認医薬品通常の医薬品として承認されたものSativex(多発性硬化症の痙縮)、Epidyolex(特定のてんかん)
② 他国承認品の個別輸入デンマーク未承認だが他国で承認されているものを、患者ごとに当局の許可を得て輸入Marinol、ナビロン
③ magistral(薬局調剤)薬局が医師の処方に応じて 患者ごとに調製する製剤THC・CBD などを用いた個別調製
④ 制度の対象製品栽培・製造基準を満たした 規格品。乾燥花、オイル、カプセル、錠剤など制度のリストに収載された製品

①には処方医の制限がある。Sativex は神経内科専門医、Epidyolex は神経内科または小児科の専門医に限られる。

今回恒久化されたのは ④ の部分である。

④ の製品は、無作為化比較試験のデータを持たないまま制度に収載されている——この点はデンマーク医薬品庁自身が明示している。品質と規格は担保するが、有効性が臨床試験で確立されているという意味ではない。

数字を見る

使用の伸び

2024 年2025 年変化
処方件数13,66522,410+64%
患者数1,6052,465+54%

処方の伸び(64%)が患者の伸び(54%)を上回っている。1 人あたりの処方回数が増えたことになる。継続して使う患者が定着してきた、と読むのが自然だろう。

製品は 13 種類、うち 2 つで 6 割近く

制度には 13 の製品が収載されており、THC・CBD、あるいはその組み合わせを含む。

そのうち処方件数の上位 2 つは、いずれも Bedrocan 社の製品だった。

  • Scanleaf — 7,460 件
  • Canngros — 5,430 件

合計 12,890 件で、全体 22,410 件の 約 57% を占める。選択肢は 13 あるが、実際の処方は 2 製品に集中している。

「有害事象 3 件」をどう読むか

医薬品庁への 有害事象の疑いの報告は、2025 年に 3 件(うち 2 件が重篤、1 件が非重篤)。2024 年も同じく 3 件だった。庁は 新たな、あるいは変化した安全性シグナルは認められないとしている。

22,410 件の処方に対して 3 件。これは一見きわめて安全に見える。

ただし、この数字だけで安全性を語ることはできない。

こうした報告は 自発報告(spontaneous reporting) と呼ばれる仕組みで集められる。患者や医療者が気づいて、自発的に届け出たものだけが数に入る。医薬品の副作用報告が実際の発生件数を大きく下回ることは、医薬品安全性監視の分野では広く知られた現象である。報告されなかったものは、数字に現れない。

したがってこの 3 件が意味するのは、

  • 「重大な安全性の問題が、報告制度に引っかかるほど目立つ形では現れていない」

というところまでで、「有害事象がほとんど起きていない」ことの証明ではない。医薬品庁の表現も「新たな、あるいは変化したシグナルは認められない」であって、「安全である」とは書いていない。

この区別は重要である。自発報告の強みは 想定外の重大な問題を早期に拾うことにあり、発生頻度を測ることには向いていない。

残った問題——補助率が逆転している

ここが、この制度でいま最も議論されている点である。

公的補助率
③ magistral(薬局調剤)85%
④ 制度の規格品37%

個別に調製される製剤のほうが、規格化された製品より 2 倍以上手厚い。

しかも価格差がある。報道によれば、magistral 製剤は制度の規格品より 6〜7 倍高いとされる。高いほうに手厚い補助がつく構図になっている。

結果として公的支出も偏った。2018〜2022 年の累計で、magistral に 9,300 万デンマーククローネ、制度の規格品に 1,700 万クローネ——約 5.5 倍の開きである。

さらに、デンマークの医療大麻市場(年間約 6,000 万クローネ)のうち、1 つの薬局がおよそ半分(約 3,000 万クローネ)を占めているという指摘もある。

この指摘の出どころには注意が要る

「ludicrous(ばかげている)」という評価は、業界側から出ているものである。上記の市場シェアの指摘も、制度の規格品を供給する企業(Stenocare)の CEO による発言である。

補助率が薄い側の当事者が、補助率の配分を批判している——という構図は踏まえておく必要がある。補助率の数字そのもの(85% と 37%)は制度上の事実だが、それを「ばかげている」と評価するかどうかは立場によって変わる。

一方で、規格と品質管理を課した製品のほうが公的支援が薄いという構造は、制度の設計意図と噛み合っていないようにも見える。デンマーク政府は施行前の調整権限を保健省に与えており、見直しの余地は残されている。

規模を見誤らないために

処方 64% 増という数字は勢いがあるが、絶対数は小さい。

  • 患者 2,465 人。デンマークの人口は約 590 万人なので、0.04% 程度
  • 処方 22,410 件は、1 患者あたり年 9 回程度の計算になる

隣接する例と比べると差は明確である。ドイツは 2026 年第 1 四半期だけで 67 トン超の医療大麻を輸入しており(「ドイツの医療大麻輸入、四半期で67トン」参照)、桁がまるで違う。

**デンマークは「慎重に小さく運用してきた国」**である。その運用を 8 年続けたうえで恒久化した、という点にこそ意味がある。

読み方

この決定の要点は「デンマークが医療大麻を認めた」ことではない。2018 年の時点で既に認めていた。

変わったのは 期限が外れたことである。

  • 期限つきで始めた → 8 年運用した → データを見て恒久化した

という手順を実際に踏み切った例は、多くない。制度を始める国は増えているが、始めた制度を評価して畳むか残すかを決めるところまで到達した国は、まだ限られている。

各国の制度の違いは、別記事「医療大麻は国ごとに何が違うのか」や「世界の合法化マップ」も参照。

なお、制度に収載された製品が 無作為化比較試験のデータを持たないという点は、この分野の共通した状況でもある。標準化された抽出物について臨床試験が行われている例としては、慢性腰痛を対象とした VER-01 がある(「FDA、Vertanical の大麻由来腰痛薬「VER-01」をブレークスルー指定」参照)。

日本国内における規制

日本国内では大麻草・大麻製品の 所持・使用・栽培・輸出入は大麻取締法および関連法令(現・大麻草の栽培の規制に関する法律、麻薬及び向精神薬取締法)により規制 されている。2024 年 12 月の法改正により、大麻由来医薬品の使用は所定の手続きのもとで可能となったが、デンマークのような医療大麻制度は日本には存在しない。本記事は海外の制度を解説するものであり、大麻の使用を推奨するものではない。

出典

出典 — Sources

この記事がよかったら

コメント
    0 / 600

    リンクや売買・勧誘とみなされる投稿、他者を傷つける表現はご遠慮ください。投稿は公開されます(不適切なものは削除される場合があります)。

    この記事をシェア

    Related

    この記事を読んだ人はこちらも