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唾液(口腔液)を使った THC の検査について、16 の研究・241 人分のデータをまとめて精査した 系統的レビューが、学術誌 International Journal of Legal Medicine に掲載された。2026 年 5 月にオンライン公開され、9 月号に収録されている。

結論は、検査を使う側にとって都合の悪いものだった。使用した直後でも陰性が出ることがある一方で、常用者では非常に長い時間にわたって陽性が続く。つまりこの検査は、「いつ使ったか」を教えてくれない

ざっくり言うと

  • 使用から 2 時間後の陽性率は、常用者 83% / たまに使う人 38% / 食用 59% / 受動喫煙 6%
  • **「まだ影響が残っていそうな時間帯に、陰性が出た例が相当数あった」**と論文は述べている
  • 逆に常用者では 長時間の検出が推定されたが、この上限値は 信頼区間が非常に広く、上限を算出できなかった
  • 検査が示すのは 検出されたかどうかだけであり、酔っているかどうかではない

何を調べたのか

著者はオーストラリアの産業保健機関に所属する Christine McNeil。職場での薬物検査という文脈が背景にある。

  • 対象は、THC 使用後 6 時間以上にわたり個人ごとの質量分析データを報告している実験研究
  • 基準値は 5 ng/mL。これはオーストラリア・ニュージーランドの規格 AS/NZS 4760:2019 で、口腔液検査の陽性報告の基準値として使われている値である
  • 16 論文が条件を満たし、そこに 37 の実験状況241 人が含まれた

対象者は 4 群に分けられた。

  1. 常用者(吸入)
  2. たまに使う人(吸入)
  3. 受動喫煙
  4. その他の摂取方法(焼き菓子 3 件、「ライト」大麻 1 件、医療用オイル 1 件)

結果

使用直後

摂取から 0〜15 分の時点では、受動喫煙を除くすべての群が 100% 陽性だった(受動喫煙は 57%)。

2 時間後

陽性率
常用者(吸入)83%
たまに使う人(吸入)38%
食用(焼き菓子など)59%
受動喫煙6%

たまに使う人は、2 時間後には 6 割以上が陰性になっている。

どれくらい検出され続けるか

論文は「100 人に 1 人がまだ陽性」となる時点を最大検出時間として、回帰分析で推定した。

  • 受動喫煙: 3.3 時間(範囲 2.7〜4.3 時間)
  • 常用者のうち初期濃度が最も高かった群: 162 時間(約 6.8 日)

ただし後者について、論文は明確な但し書きをつけている。「常用者群では回帰分析に使える検査数が非常に少なく、信頼区間が極めて広くなった結果、上限は算出できなかった」。162 時間という数字は、幅のある推定の一端として読む必要がある。

いちばんの問題

論文がはっきり書いているのは、次の点である。

検査結果を隠そうとする動機がない場合でも、使用直後——影響下にあると考えられる時間帯のうちに——陰性を示した結果が多数あった

検査を使う目的が「いま危険な状態にある人を見つけること」なのだとすれば、目的を果たせていないことになる。

なぜこうなるのか

口腔液中の THC は、主に 口の中に残った付着分を測っている。だから、

  • 吸ってから時間が経つと急速に減る——ただし減り方には個人差が大きい
  • 食用では口を通る量が少ないため、吸入とは挙動が違う
  • 常用者は口腔内に残留が蓄積しやすく、長く検出されうる

論文が報告する初期濃度の幅は、0 から 71,747 ng/mL まで。基準値の 5 ng/mL に対して、桁が四つ以上違う範囲に散らばっている。ばらつきの指標(標準偏差 ÷ 初期濃度)は平均 1.28(範囲 0.5〜2.4)で、平均値と同程度にばらついているということを意味する。

「検出」と「酔っている」は別

ここが最も誤解されやすい点だ。

アルコールの場合、血中濃度と酔いの程度にはある程度の対応関係があり、それを前提に基準値が設けられている。**THC ではその対応関係が確立していない。**体液中の濃度が高いことは、その人がいま判断力を欠いていることを意味しない。逆もまた同じである。

この論文が測っているのも、あくまで **「基準値以上で検出されるか」**であって、能力低下の有無ではない

大麻と運転の関係については、別記事「大麻と運転」および「豪NSW州、医療大麻患者の運転規制を緩和へ」も参照。

注意点(著者自身が挙げる限界)

  • **研究間のばらつきが大きい。**摂取方法も用量も統一されていない。ただし論文は、これは実際の使用実態を反映しているとも述べている
  • 常用者・多量使用者のデータが不足している。とくに長時間の追跡が少ない
  • ベイプ(気化吸入)や医療用製品についての研究が足りない。これらは近年広がった使い方であり、既存データが追いついていない
  • 基準値 5 ng/mL はオーストラリア・ニュージーランドの規格に基づくもので、国や制度によって基準値は異なる

日本にとっての意味

日本では 2024 年 12 月 12 日から、大麻の 使用そのものが処罰の対象になった(制度の全体像は「日本の大麻ルールはいま」を参照)。

処罰の対象が「所持」から「使用」に広がるということは、使用があったことを立証する必要が生じるということでもある。そして、体液中の成分から 「いつ使ったのか」を特定することの難しさは、検査方法を問わず共通する課題である。

たとえば尿検査で調べられるのは THC そのものではなく 代謝物であり、これは脂溶性のため体内に長くとどまる。**陽性であることは、使用がいつだったかを示さない。**唾液検査は「より直近の使用を捉えられる」ことを期待されて導入されてきたが、今回のレビューは その期待にも限界があることを示している。

本記事は公表された研究の解説であり、特定の検査方法や制度を評価・推奨するものではない。

読み方

この論文は「唾液検査は使えない」と言っているわけではない。集団レベルでは、初期用量に応じて一定の平均的な検出時間が見られるとも述べている。問題は、個人レベルの判定に使うときである。

ある人の検査結果が陰性でも、直前に使っていないとは言えない。陽性でも、いま影響下にあるとは言えない。その一枚の結果から読み取れることは、思われているより少ない——というのが、241 人分のデータを積み上げた先にある結論だった。

出典

出典 — Sources

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