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南米パラグアイの麻薬対策庁 SENAD が 2026 年 10 月 7 日、ちょっと変わった発表をした。**密輸大麻の「隠し場所ランキング」**である。

18 位は靴下。そして 1 位は レコードプレーヤーだった。

隠されていたのは、米国から送られてきた高濃度の大麻。パラグアイは 南米最大の大麻生産国として知られる国だ。自分の国で大量に育てている国に、わざわざアメリカ産が持ち込まれている。

ざっくり言うと

  • 何が発表されたか — 現政権の期間(2023 年 8 月〜)に押収した、米国由来の「プレミアム大麻」は 1,218kg。あわせて 隠し場所 18 品目のランキングを公表
  • どこから、どこへ — 出どころは主に 米国(マイアミ、カリフォルニア)。行き先の多くは 隣国ブラジルで、SENAD は 1kg 最大 1 万 4,000 ドルで売られる想定で計算している
  • なぜ変わった話なのか — パラグアイは国内で桁違いの量を生産している。9 月には作戦 1 回で 約 105 トンを押収したばかり。量では比較にならない米国産が、値段の高さゆえに持ち込まれている

隠し場所ランキング(全 18 位)

SENAD の公式発表に掲載された順位である。発表の見出しは「最も目を引く物(Los objetos más llamativos)」で、押収量の順ではない。1 位のレコードプレーヤーに入っていたのは、報道によれば約 1kg の大麻ワックスにすぎない。手口の意外さで並べた順位と読むのが自然だろう。

順位隠し場所内容
1レコードプレーヤーマイアミから送られた機器の中に、THC 濃度の高い大麻
2車のバッテリー偽のバッテリーに 102kg 超。GPS 追跡装置つき
3美術品「アート作品」と申告した木箱に 147.4kg(カリフォルニア発)
4トラックのプロペラシャフト部品の内部を改造して空洞を作る
5ピックアップトラック輸入車の二重底や改造した収納に 311kg
6浄水器機器の中から約 2.6kg
7家庭用ゲーム機本体と部品のあいだに約 1.5kg
8おもちゃ箱とおもちゃを隠れみのに
9爬虫類のエサ「動物用飼料」と申告した荷物
10工業用接着剤「接着剤」と表示した円筒容器
11断熱材ロール状の断熱材の中に 25kg。麻薬探知犬が発見
12バイクの荷台「VIP」と書かれた包み 37 個
13スポーツサプリ「クレアチン」「プロテイン」と表示した容器
14オーディオ機器娯楽用の機器の内部
15キャンプ用品アウトドア用品を隠れみのに
16溶接機業務用の機械の内部
17車のシートカバー自動車用の資材を利用
18靴下衣類のあいだに大麻ワックス

SENAD は発表を、**「密売の創意工夫に限りはない。取り締まりにも限りはない」**という趣旨の一文で結んでいる。

数字の読み方について

6 位と 7 位の重量は、SENAD のランキング記事では「2.586kg」「1.524kg」と表記されている。スペイン語圏ではピリオドが千の位の区切りに使われることが多く、そのまま読むと 2,586kg・1,524kg と大量に見える。

しかしそう読むと、この 2 件だけで押収総量 1,218kg を大きく超えてしまう。SENAD の個別発表を確認したところ、ゲーム機の件は **「1 キロと 524 グラム」**と明記されていた。本記事では 約 1.5kg・約 2.6kg と表記している。現地メディアにも両方の読み方が混在している。

大口は 4 件

ランキングは手口の珍しさで並んでいるが、量を稼いでいるのは別の 4 件である。SENAD の別の発表によれば、

作戦名内容量
NARCO JET米国から飛来したプライベートジェットを押さえ、米国人 3 人を逮捕261kg
AIR BOXカリフォルニアから「美術品」として送られた木箱147kg
国境の検問隣国ブラジルとの国境の橋の近くで、二重底の車両。ブラジル向け304kg
港の検査ビジェタ港で、輸入車の中に隠匿311kg

4 件で 1,023kg。総量 1,218kg の 8 割超をこの 4 件が占める。残る約 195kg が、レコードプレーヤーや靴下を含む小口の積み重ねということになる。

SENAD はブラジルでの価格を 1kg 最大 1 万 4,000 ドルとし、密売組織の損失を 1,700 万ドル超と見積もっている。

なぜ「逆流」なのか

パラグアイは長く、南米で最も大麻を生産する国とされてきた。

  • 国連薬物犯罪事務所(UNODC)は 2011 年の時点で、パラグアイを 南米最大の生産国とし、世界の生産量の約 15% を占めるとしていた
  • 国際的な研究機関 Transnational Institute の報告書は、ブラジルの主要都市で消費される大麻の約 8 割がパラグアイ産だと記している

いずれも 10 年以上前の推計である点は断っておく。ただし生産規模がいまも大きいことは、直近の押収量からもうかがえる。

2026 年 9 月 22 日、SENAD は欧州・中南米・カリブ諸国の合同作戦 Atlas Nexus(ベルギー連邦警察が主導)の成果として、国内で 104.96 トンの大麻を押収したと発表した。10 月 8 日にも、北東部アマンバイ県で栽培・加工拠点が摘発され、11 トンを超える大麻が処分されたと現地紙が報じている。

比べてみると差は歴然としている。

  • 米国産の「プレミアム大麻」 — 約 3 年で 1,218kg
  • 国内産 — 作戦 1 回で 104.96 トン

量では 80 分の 1 以下にすぎない米国産が、それでも密輸ルートに乗っている。理由として SENAD 自身が示しているのは 価格である。「プレミアム」「高濃度」とされる米国産は、ブラジルで 1kg 最大 1 万 4,000 ドルという値がつく想定になっている。

つまり、同じ「大麻」でも、量で勝負する国産と、濃さと銘柄で勝負する輸入品という二つの市場が、同じ国境を通っている。米国で品種やクローンに高い値がつく構造については、別記事「大麻の苗1本に2万ドル」でも扱った。

日本から見ると

この話には、日本の読者にも関係する点が一つある。

米国の州で合法に売られている製品であっても、国境を越えた瞬間に別の法律の下に入る。 パラグアイでも、米国の合法市場の製品は密輸品として押収されている。

日本では 2024 年 12 月 12 日の法改正で、大麻は **麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)上の「麻薬」**として扱われるようになった。輸入・所持・使用はいずれも処罰の対象である(制度の全体像は「日本の大麻ルールはいま」を参照)。

米国のある州で合法であることは、パラグアイでも日本でも、扱いを何も保証しない。 SENAD のランキングに並んだレコードプレーヤーやゲーム機は、そのことを具体的な形で見せている。

読み方

隠し場所ランキングは、一見すると取り締まり機関の広報である。実際その側面はあるだろう。

ただ並んだ品目を眺めると、密輸の現場がどう変わったかが透けて見える。トン単位の圧縮大麻をトラックで運ぶ従来型の密輸ではなく、国際郵便・宅配・プライベートジェットで、少量・高単価の品を、日用品に紛れ込ませて送る。レコードプレーヤー、ゲーム機、サプリの容器——いずれも個人宛ての荷物として不自然ではない物ばかりである。

かつて大麻を 輸出する側だった国が、いまは 高級品を輸入される側にもなっている。合法化が進んだ米国の市場が、国境の外にどう影響しているかを示す、小さいが具体的な事例である。

南米の制度については、パラグアイの隣国の例として「ウルグアイの大麻合法化」も参照。

日本国内における規制

日本国内では大麻草・大麻製品の 所持・使用・栽培・輸出入は大麻取締法および関連法令(現・大麻草の栽培の規制に関する法律、麻薬及び向精神薬取締法)により規制 されている。本記事はパラグアイ当局の発表を解説したものであり、大麻の使用や入手を推奨するものではない。

出典

出典 — Sources

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