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英国で、THCV(テトラヒドロカンナビバリン)という成分を多く含む医療大麻の花の処方が始まった。英国の生産会社 Glass Pharms(グラス・ファームズ)が開発した「THCV Harmony」で、THC 約 10%、THCV 約 7% を含む。

THCV は、食欲を増すことで知られる THC とは逆に、食欲を抑える可能性が研究されている成分で、英語圏では「スキニー・ウィード(痩せる大麻)」とも呼ばれる。ただし人での証拠は 小規模な試験 にとどまり、生産会社の CEO 自身も「約束は証拠ではない」(筆者訳)と話している。

ざっくり言うと

  • 英国で、珍しい成分 THCV を多く含む医療大麻の花が、専門医の処方で手に入るようになった
  • THCV は「食欲を抑えるかもしれない」と注目されているが、人で確かめた研究はまだ少なく小さい
  • 「痩せる大麻」という呼び名が先行している状態で、減量の薬として認められたものではない

何が起きたか

医療大麻の業界紙 MMJ Daily(2026 年 10 月 19 日)と Business of Cannabis(10 月 21 日)によると、内容は次のとおり。

項目内容
品種名THCV Harmony
成分THC 約 10%、THCV 約 7%
生産Glass Pharms(英国ウィルトシャーに 2.4 ヘクタールの温室)
処方するクリニックReleaf(リリーフ)。最初の生産分 100kg をすべて確保
期間2026 年末までは Releaf の患者だけ。その後は他のクリニックも予約注文で扱える
対象専門医が診察したうえで処方。Releaf は、体重管理に関わる悩みで、従来の治療を 2 つ以上試してもよくならなかった人 を対象にするとしている

Glass Pharms は、この品種の開発と、性質を安定させるまでに 1 年以上 かかったと説明している。THCV はふつうの大麻草にはごく少量しか含まれず、多く作らせるには特別な遺伝的性質が必要だという。

両社は、THCV が英国で処方されるのは 1973 年以来 だとしている(後述)。

THCV とはどんな成分か

THCV は THC と形がよく似た成分である。THC は脳の CB1 受容体(細胞の表面にある「鍵穴」のようなもの。THC という「鍵」が合うとスイッチが入り、食欲が増す)に働きかける。

THCV は 少ない量では、この鍵穴をふさぐ側に回る(拮抗薬として働く)とされ、量が多いと THC に近い働きをするとされる。この「少量では逆向き」という性質から、食欲や代謝への影響が研究されてきた。詳しくは「THCV とは」で解説している。

アフリカ南部などの在来品種に比較的多いとされ、サイトで紹介している ダーバンポイズン もその例として知られる。

人での研究はどこまで進んでいるか

THCV と体重・代謝についての人での研究は、いまのところ次のような 小規模なもの が中心である。

  • 2 型糖尿病の患者 62 人の試験(2016 年): 医学誌『Diabetes Care』に載ったランダム化比較試験(くじ引きでグループを分け、偽薬と比べる方法)。THCV を 1 日 2 回 5mg ずつ 13 週間のんだグループで、空腹時の血糖値が偽薬より下がった。Releaf 自身のブログも、この試験では 体重はほとんど減らなかった と説明している
  • 44 人・90 日の試験(2025 年): THCV と CBD を含む口の中に貼るシートを毎日使い、偽薬と比べて体重やお腹まわりが減ったと報告された。Glass Pharms の CEO がこの研究に触れている。ただし高用量群と偽薬群の人数が少ないことを、論文自身が弱点として挙げている。また THCV 単独ではなく CBD との組み合わせである

動物実験では食べる量や体重が減ったという報告があるが、人で「痩せる」と確かめられた段階ではない。Releaf のブログも、THCV は 減量の薬として認められたものではない と書いている。

関係者の発言

  • Glass Pharms の CEO ジェームズ・ダッケンフィールド氏: 「何十年も、大麻は THC がどれだけ含まれるかで評価されてきた」「約束は証拠ではない」(筆者訳)。英国の患者から集まる実際のデータが重要になるとしている
  • Releaf の最高医療責任者 グラハム・ウッドワード氏: 従来の体重管理の方法が誰にでも合うわけではないとしたうえで、THCV は医療大麻の議論を代謝の分野に広げるものだが、その研究は「始まったばかり」だと話している。処方は一人ひとり判断するという

背景:1973 年の「大麻チンキ」

両社の説明によると、英国の医師は 1973 年まで、パキスタン産の大麻から作った「大麻チンキ」(大麻をアルコールに漬けた液体の薬)を処方できた。1970 年代初め、オックスフォードの薬理学者がこのチンキを分析し、のちに THCV と呼ばれる成分が見つかったという。実際、THCV を大麻から取り出して構造を調べた論文が 1971 年 に英国の化学会誌に出ている。

チンキの輸入許可は 1973 年に更新されず、大麻由来の薬は英国の処方から消えた。英国では 2018 年 11 月 から専門医が大麻由来の医薬品を処方できるようになったが、両社によれば、その後の製品に含まれる THCV はごくわずかだった。

関連する論点

  • 「痩せる大麻」という呼び名の先走り: Releaf のブログは、ネットで「スキニー・ウィード」として売られている製品は規制の外にあると注意している。名前のイメージと、研究で分かっていることの差は大きい
  • THC も 10% 含む: THCV Harmony は THCV だけの製品ではなく、酔いをもたらす THC も同じくらい含む。THCV と THC の組み合わせで何が起きるかは、さらに分かっていない
  • 企業発のニュース: 今回の情報は、生産会社とクリニックの発表をもとにした報道である。処方を受けた患者のデータは、まだ公表されていない
  • 英国の医療大麻の現状: 英国では医療大麻の処方の多くが民間のクリニックを通じて行われている。今回も民間クリニックが独占的に扱う形で始まった

日本との関係

日本では、2024 年 12 月施行の改正法のもとで、大麻草から作った医薬品は承認されれば使えるようになったが、THCV を含む花を医療用に処方する制度はない(2026 年 10 月時点)。

出典


本記事について

本記事は学術論文の内容を一般読者向けに解説したものです。 紹介されている研究結果は特定の対象・条件下で得られたものであり、すべての人に当てはまるとは限りません。 医療上の判断は必ず医師等の専門家に相談してください。 本記事は大麻の使用を推奨・推進するものではありません。 日本においては、大麻取締法および関連法令により大麻草・大麻製品の所持・使用・栽培・輸出入は規制されています。

出典 — Sources

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