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オリンピックをはじめ、国際競技で使われるドーピング規則が変わる。

世界アンチ・ドーピング機構(WADA) が 2027 年の禁止表を公表し、大麻に関わる カンナビノイドの規定を書き直した。2027 年 1 月 1 日から適用される。

これまでの規定は、ひとことで言えば 「CBD 以外のカンナビノイドはすべて禁止」。2027 年からは 「精神作用のある成分と、THC に似た作用を持つ合成物だけを禁止」 になる。

ただし、大麻が解禁されるわけではない。競技会の期間中に THC が出れば、これまでどおり違反になる。

ざっくり言うと

  • 何が変わるか — 禁止の範囲が 「すべてのカンナビノイド(CBD を除く)」 から 「精神作用のある成分と、THC 類似の合成物」 に絞られる。精神作用がなく THC のような働きもしない天然成分は、対象から外れる
  • 何が変わらないか — THC は 競技会の期間中は引き続き禁止。CBD はもともと禁止されていないが、CBD 製品に混じった THC で陽性になるリスクは残る
  • スポーツ界の現状 — 米国の NBA は大麻の検査をしていない。NFL も出場停止はない。一方で 五輪は禁止のまま。同じ大麻をめぐって、競技団体ごとの扱いはばらばらである

何が変わったのか

WADA の禁止表は毎年改訂される。2027 年版は 2026 年 9 月 10 日に WADA の執行委員会で承認されたと各国の機関が伝えており、ドイツのアンチ・ドーピング機構(NADA)は 9 月 22 日に公表を告知している。

大麻に関わるのは、禁止表の 「S8 カンナビノイド」 という区分である。

2026 年まで2027 年から
禁止の範囲天然・合成のカンナビノイドはすべて禁止精神作用のある成分と、THC に似た作用を持つ半合成・合成物
例外CBD(カンナビジオール)だけ精神作用がなく、THC のような作用も持たない天然のカンナビノイドは対象外
禁止される時期競技会の期間中のみ競技会の期間中のみ(変わらず)

米国アンチ・ドーピング機構(USADA)は、2027 年版で禁止対象として挙げられた例として Δ8-THC、Δ9-THC、Δ10-THC、HHC、AB-FUBINACA、5F-ADB を示している。いずれも大麻の主成分 THC そのものか、THC に似た作用を持つ物質である。

WADA 自身はこの改訂を、よく見られるカンナビノイドが THC に似た作用を持つかどうかについての、最新の科学的知見を反映したものと説明している。

なぜこれが意味を持つのか

これまでの規定では、CBD 以外のカンナビノイドはすべて禁止だった。つまり CBG や CBN のような成分も、理屈の上では禁止の対象に入っていた。しかも THC 以外には基準値がない。

オーストラリア政府のスポーツ公正機関は選手に対し、「CBD 製品にはほかの禁止カンナビノイドも入っているものと考えるべきだ」と注意を呼びかけてきた。大麻草から CBD だけをきれいに取り出すことはほぼ不可能だ、というのがその理由である。

2027 年からは、精神作用のない天然成分はこの心配の対象から外れる。CBD 製品を使う選手にとっては、気にすべき範囲が THC とその類似物質に絞られることになる。

ただし、どの成分が「精神作用あり」の側に入るかは、例示に載っていないものについては今後の解釈を待つ部分がある。たとえば CBN が個別にどう扱われるかは、今回の公表資料からは確認できなかった。

THC の基準値はどうなっているか

THC だけは、尿中の代謝物について 数値の基準がある。

  • 2013 年、WADA は基準値を 15 ng/mL から 150 ng/mL へ 10 倍に引き上げた。競技会の 外で使った分が残っていて陽性になるケースを減らし、競技会の期間中に使った選手に的を絞るためとされる
  • 日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の解説によれば、現在の基準値は 150 ng/mL、実際の判定に使う限界値は 180 ng/mL

2027 年版の公表資料には基準値の変更は書かれておらず、変更されたとの情報は確認できなかった。

ちなみに当サイトで以前扱った 米軍の尿検査の基準値は 15 ng/mL だった(「陽性が出た、だけで「知って使った」と言えるか」)。五輪の 10 分の 1 である。

それでも大麻が禁止のままである理由

WADA は、ある物質を禁止表に載せるかどうかを 3 つの基準で判断する。競技力を高める可能性、選手の健康へのリスク、スポーツの精神に反すること。このうち 2 つを満たせば載せることができる。

大麻については、2021 年に見直しが始まった。きっかけは、米国の陸上短距離選手 シャキャリ・リチャードソンの件である。全米選考会の 100m で優勝しながら THC の陽性で 30 日間の資格停止となり、東京五輪の 100m に出場できなかった。母親を亡くした直後のストレスで使った、と本人は説明している。

この件で批判が高まり、WADA は 2021 年 9 月に科学的な見直しを決めた。しかし 2022 年 9 月、専門家グループは「大麻は禁止表に載せる基準を満たしている」と結論づけ、THC は禁止のままとされた。

今回の 2027 年版は、その延長線上にある。THC の禁止は維持しつつ、THC と関係のない成分まで巻き込んでいた範囲を整理した、という性格の改訂といえる。

発端は、長野だった

大麻とオリンピックの関係を語るうえで、日本は無関係ではない。

1998 年の長野五輪で、スノーボードが初めて正式種目になった。男子大回転で金メダルを取ったのは、カナダの ロス・レバグリアティ。五輪スノーボードの最初の金メダリストである。

ところが直後の検査で、大麻の代謝物が検出された。国際オリンピック委員会(IOC)は一度メダルを剥奪したが、スポーツ仲裁裁判所(CAS)が 2 月 12 日にメダルを戻した。理由は、当時の IOC の禁止リストに大麻が載っていなかったことだった。

大麻が IOC の禁止リストに加えられたのは、その翌年の 1999 年である。

当時の報道によれば、レバグリアティの検出値は 17.8 ng/mL。現在の基準値 150 ng/mL の 8 分の 1 程度にあたる。ただし当時と現在とで測定方法が同じとは限らないため、単純な比較には留保が要る。

スポーツ界の扱いはばらばら

同じ大麻でも、競技団体によって扱いは大きく違う。米国の主なリーグを並べるとこうなる。

大麻の扱い
NBA(バスケットボール)検査をしていない。2023 年の労使協定で検査対象から外した。ただし試合やチームの行事での使用は不可
NFL(アメリカンフットボール)2020 年の労使協定で 出場停止を廃止。2024 年 12 月には基準値を 150 → 350 ng/mL に引き上げ、罰金も 1 回目 1 万 5,000 ドル、2 回目 2 万ドルに減額
NCAA(大学スポーツ)2024 年 6 月、1 部の選手権について禁止薬物から削除
UFC(総合格闘技)2023 年末に禁止リストから削除。ただし州の競技委員会が独自に検査することはある
五輪など国際競技(WADA)競技会の期間中は禁止。2027 年から範囲を整理

NFL の基準値 350 ng/mL は五輪の 2 倍以上、米軍の 23 倍以上である。同じ国の中で、同じ物質の「陽性」の線がこれだけ違う。

米国の大学スポーツの選手は、NCAA の規則で大麻が禁止されなくなっても、国際大会に出るなら WADA の規則が別に適用される。どの大会に出るかで、守るべきルールが変わることになる。

日本の選手にとって

日本のアンチ・ドーピングの仕組みは WADA の規程に沿っており、2027 年の禁止表は日本の選手にも適用される。

一方で、日本の選手が直面する問題は、ドーピング規則より手前にある。日本では 2024 年 12 月の法改正で大麻は **麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)上の「麻薬」**として扱われるようになり、使用そのものが処罰の対象になった。また今回の例示に挙がった HHC は、日本では 2022 年に指定薬物とされている(「HHC とは」参照)。

つまり日本では、ドーピング規則が THC をどう扱うかに関係なく、法律の段階で禁止されている。

CBD 製品については、日本でも合法に流通している。ただし製品に含まれる THC には、2024 年 12 月から法令で上限値が定められている(「CBD とは」参照)。

そのうえで JADA は、選手がサプリメントを使うことに慎重な立場をとっている。JADA は 2019 年 3 月にサプリメントの認証制度を終了しており、現在は製品の分析も認証も行っていない。天然由来の成分については、禁止物質がまったく入っていないと確認することはできないとしている。

「CBD だから大丈夫」とは言えない——この点は、2027 年の改訂の後も変わらない。

読み方

今回の改訂を「WADA が大麻に寛容になった」と読むのは正確ではない。THC の禁止は 1 ミリも動いていない。

変わったのは、THC と関係のない成分まで一律に禁止していた、大ざっぱな線引きのほうである。CBD をはじめ、大麻草由来の成分を使った製品が世界中で出回るようになった結果、「すべてのカンナビノイド」という書き方が現実に合わなくなった。その書き方を、精神作用の有無という基準で整理し直したといえる。

一方で、スポーツ界全体を見渡すと、NBA は検査をせず、NFL は 350 ng/mL まで許容し、五輪は 150 ng/mL で禁止を続ける。長野で金メダルが一度剥奪されてから 28 年たっても、大麻をスポーツの中でどう位置づけるかについての合意は、まだできていない。

日本国内における規制

日本国内では大麻草・大麻製品の 所持・使用・栽培・輸出入は大麻取締法および関連法令(現・大麻草の栽培の規制に関する法律、麻薬及び向精神薬取締法)により規制 されている。本記事は国際的なドーピング規則の改訂を解説したものであり、大麻や関連製品の使用を推奨するものではない。

出典

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